RyzenがCore iと比べ性能が圧倒的に高いという誤解

CPU性能比較表でCinebenchやPASSMARKの指標を見ると、AMDのRyzenがインテルのCoreiシリーズを完全に凌駕しているように見える。

このためRyzenの方がCore iシリーズと比べて優れていると言えるが、ベンチマークは実際の数ある使用ケースの全てを正確に捕捉できているわけではない。

性能比較表だけだと、「じゃあRyzenにするか」と短絡的になってしまいがちなので、それに警鐘を鳴らすという意味でインテルCPUが優れている点及び、AMDが拠り所とするパフォーマンス主張の欠陥を明らかにする

インテルはソフトウェア最適化でAMDの上を行く

CPUの性能を十分に引き出すのはソフトウェアの役割である。たとえば複数のコアをどう並列に扱うか?CPUとGPU、その他の専用の処理を行うモジュールをいかに適材適所に分担させるか?などを考えて実装することでパフォーマンスは何倍にも跳ね上がる。

ところが一般のアプリケーションエンジニアがCPUの特性を利用してプログラムを組むのはスキルやCPU特性の理解の観点で難易度が高く、容易にできるものではない。

これに対してインテルはoneAPIOpenVINOといったツールキットを準備することで簡単にCPUの性能を開発者が引き出せるようにしている

例えばAdobeのAIを駆使したソフトウェア機能Adobe SenseiはOpenVINOツールキットを使用したパフォーマンスの最適化が行われており、動画から不要なオブジェクトを消すなどの処理を高速で行うことができる。

他にもGoogleやMicrosoftなど主要アプリケーションを抱えるベンダーに対してインテルCPUの性能を最大限に引き出せるよう綿密な連携を行いつつ開発を進めており、Google ChromeやMicrosoft Officeのパフォーマンスは高い。

一方のAMDは開発人員はインテルと比べて小規模であり、アプリごとの最適化はそこまで進んでいない

ベンチマークの結果は正当なものであり、その評価は信頼に足るものであるが、各アプリごとの最適化処理を考慮したものではないことは理解しておこう。

インテルCPUは専用プロセッサーで負荷を分散

製品として売り出される、あるいはノートパソコンに組み込まれるCPUは、純粋なCPUにあたるCoreの部分の他にもグラフィックを担当するモジュール、通信を行うためのモジュールなど複数のプロセッサが組み合わさりできている。

インテルは特定の処理に特化したプロセッサをいくつか抱え、それが全体のワークフローをより快適にしてくれている

たとえば、編集した動画をYoutube投稿用など媒体に適した形に変換する時などに使われるメディアエンコーダ/デコーダの専用プロセッサを持っており、重くなりがちな変換中のCPU負荷を軽減してくれている。

この技術はクイック・シンク・ビデオとマーケティングでは呼ばれている。

またGNA(Gaussian & Neural Accelerator)と呼ばれるプロセッサはAI処理を専門に扱い、AIで良く使われる演算に特化して低消費電力でハイパフォーマンスを発揮する。

リモート会議中に周囲の雑音が相手に届かないようにするノイズキャンセリングはこのプロセッサを使っており、高品質な通話をCPUに負荷をかけることなく実現している。

ベンチマークでは汎用的なCoreのみで評価しており、専用のプロセッサを使用するということは行っていないはずである。この結果、実際の使用でパフォーマンスの乖離が生じてしまうのである。

ベンチマークには限界がある

ベンチマークは様々な種類の負荷をCPUに対してかけることにより能力を判定するが、ワークフローの全てをカバーできるものではない

たとえばCinebenchは動画編集作業のベンチマークソフトウェアとして使われているが、テストで行っているのは3Dのレンダリング速度である。

3Dレンダリングは編集を終えた最後に光の計算を綿密に行って最終的な画像を出力する処理であり、たとえば映画の1コマ分の画像生成で何時間もかかったりする非常に重い処理である。よって動画編集作業のワークフローでレンダリング速度は重要ある。

しかし、レンダリングは動画編集作業の一要素でしかなく、実際には映像のプレビュー再生やトリミング処理など編集作業の快適性を決める要素は多い。AMDはプレビュー再生がカクツクとインテル側にも指摘されている。

総合的なCPUの能力を判定しようとするPASSMARKも全体的な傾向がマルチスレッドの効果が出やすいものに偏っており、多くの利用シーンがあるAI演算性能がテストに含まれていないなど実際のワークフローを完全に再現できているものではない。

ベンチマークが有効な比較手段であることに疑いはないが、特に同種類のCPUを見る時に有効であり、アーキテクチャレベルで異なるCPU同士を比べるのは難しい場合がある

AMDはワットパフォーマンスが高いの誤解

CPUがどの程度電力を消費するかを示した指標としてTDP(Thermal Design Power)というものがある。日本語で熱設計電力と呼び、パソコンの排熱設計を行う時に用いられるものだが、省エネの目安としても使われている。

TDPの単位はワットであることからベンチマークのスコアをTDPで割った値であるワットパフォーマンスが電力の割にコスパの良いCPUの指標として用いられている。

問題はIntelとAMDではTDP計測の対象となるモジュールが異なってくるため単純に比較ができないことである。

IntelのTDPはCPUのCoreの部分及びGraphicsモジュール、専用エンコード/デコード回路等を含めた消費電力をそう呼んでいるそうだが、AMDに関しては分からない。

また、先述した低消費電力の専用プロセッサを使う処理だとワットパフォーマンスが高くなるなど、処理内容によってもワットパフォーマンスは変わる

デスクトップPCでのゲーム実行中の消費電力はAMDの方がワットパフォーマンスが高いと実測データで主張する記事もあるが、あくまでゲームの比較で、オフィス使用中やリモート会議中など全てでAMDが上回るわけではないことは注意したい。

AMDノートのバッテリーライフに潜む罠

AMDのノートパソコンではバッテリー寿命に注意が必要である。

電源を抜いた状態だと極端に電力を落としており、パフォーマンスに影響が出ることをIntelに指摘されている。このためAMDノートパソコンにロングバッテリーの表記があったとしても信頼性には欠ける

下記はIntel 11th Gen Processorsの製品説明動画からの抜粋であるが電源プラグが抜かれた状態では、インテルの5%に対してAMDは38%もパフォーマンスが落ちていると示されている。

デフォルトが省エネモードであるならば寿命が長くて当然というわけである。

AMDの方が微細化が進んでいるため性能が良いは正しくない

Intelは10nmでAMDは7nmのプロセスルールのため、AMDの方が微細化が進んでおり、これが消費電力やパフォーマンス面で有利になっているという主張がある。

7nm、10nmはどこの幅のことであろうか?実は10nmや7nmの幅はどこにもなく、単にマーケティング用語となっている。よって会社により異なるプロセスルールを単純比較することはできない。

そしてそもそもの話であるが、AMDはファブレスでCPUを自社で生産しておらず、製造はTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.)という台湾の半導体製造メーカーが担っている。よってAMDというよりはTSMCとの比較の話である。

また、同じ10nmであっても、トランジスタやコンデンサ等の部品を改良することで電力効率をインテルは上げており、これを10nm SuperFin Technologyと呼んでいたりする。実際インテルの10nm半導体はAMDの7nm半導体と比べて遜色がないものである。

ただインテルが微細化に苦労しているのは事実である。

CPUの製造過程において、露光という電子回路を半導体に転写する技術があり、EUV(Extreme Ultraviolet)を用いた露光装置が先端を行く。

EUV露光装置はオランダのADMLというメーカーのみが製造可能であるが、インテルはASMLにシェアを奪われているニコンの露光装置をいつまでも使い続けていることは微細化が遅れている一因である。

今後は分からないが次世代の開発にインテルが失敗した場合の防御策として、インテルもAMDと同様にTSMCに生産を委託する可能性があることも示唆されている。Intel falls behind Asian rival TSMC in chip race

話はそれたが単純なスペックに記載されているプロセスルールに基づいて、その性能を論じるには無理があることは頭に入れておくべきである。

ざくっとまとめ

Ryzenを語る時、多くの人はcinebenchなど全体のワークフローのごく一部だけを取り出して性能を主張しているが、実際のアプリケーションの使用を考えるとインテルもAMDと比べて決して劣ってはいない。

むしろソフトウェアベンダーとがっつりと手を組み最適化を測っているため細部を含め安定的に動作する。オフィス向けがメインの会社支給PCでAMD製パソコンが支給されているのは見たことがないが、つまりはそういうことである。

ただし決してIntelを押している訳ではない。デスクトップ向けのAMDの躍進は目を見張るものがあり、ベンチマーク結果も素晴らしいことは確かだ。

ただ、ベンチマークやスペック表だけを見て「ベンチマークスコアが同じなのにRyzenの方がこんなに安い!!」みたいに飛びつくのは危険ということである。

最後に自分が購入するなら多分次のような指針になるだろう。もっとも最終的には全てコスパに基づいて決めるので戯言と思ってもらえればよい。

ノートパソコンならインテル

低消費電力で高パフォーマンスを出す技術はIntelに分があるだろう。専用プロセッサーによるボトルネックの解消もアプリケーションの安定に寄与してくる。

AMDはコア・スレッド数が高く、大量にマルチタスクを行うなら一考の余地があるが、ノートパソコンでマルチタスクは画面サイズを考えてあまり無さそうなので無難にインテルかなぁと。

動画編集でAdobeメインならばIntel、3Dモデリングソフト中心ならばRyzen

動画編集で最も有名なソフトはAdobe Premiereであると思われるが、ソフトウェアの最適化が進んでいることを考慮するならばIntelを使っておく方がトータルの生産性は上がると思われる。プレビュー再生でRyzenはカクツクとの話もある。

ただ、Ryzenはコア数を活かしたレンダリング性能が非常に強いため、3Dモデリング、CG作成をやっていこうとするならばRyzenを選んだ方が幸せになれるだろう。

レンダリングのみならず、エンコード/デコード等の処理もマルチスレッドの得意とするところで随所でコアの強みが活きてくる。

ゲームはFPSを狙うならIntel、配信等も考慮に入れるならAMD

ゲームはシングルスレッドが強い方がフレームレートが出やすいと言われており、昔からIntelが強い。

ただ第三世代以降のRyzenはパフォーマンスでIntelに追いつきつつあり、さらにコア数が多いためゲーム以外にもCPUのパワーを十分に回すことができる。

このためゲーム配信と組み合わせることを考えるならばRyzenは良い選択肢となるだろう。また、裏でウイルスバスターが走る時などもRyzenの方がコアに余裕がないインテルよりも安定していると思われる。

トップページヘ行きパソコン購入の推薦を受ける

管理人/リンクポリシー
Yamanaka:大手電機メーカーのエンジニア。 ソフトウェア開発の片手間にちまちまと更新しています。
また、当サイト"パソコン選び方・購入ガイド(PCRECOMMEND)"はリンクフリーです。自由に参照して下さい。